養育費の支払給付を定めた家事調停調書に基づき、強制執行を行う場合には、執行文の付与は、必要ない。
したがって、この場合、執行文付与を受けずに、調停調書に基づき強制執行を申し立てることが可能である。
以上が結論であり、ここから先は説明である。
裁判所により強制執行を行う場合には、債務名義が必要である。
債務名義は、民事執行法22条に列挙されている。例えば、「確定判決」(同条1号)や「仮執行の宣言を付した判決」(同条2号)が債務名義として、ここに挙げられている。債務名義がなければ、強制執行を行うことはできない。
そして、一般的には、債務名義には、執行文の付与がなされていることが必要である(民事執行法26条)。
しかし、例外的に、執行文の付与が不要の場合がある。
この例外として、養育費や扶養料の支払給付を認めた家事調停調書に基づき強制執行を行う場合が、これに当たる。
この場合に執行文付与が不要なことについて、
法令の条文を読み解いていくことが、結構複雑で面倒である。
なので、次のとおり整理しておく。
まず、養育費の支払を求める家事調停の申立ては、家事事件手続法「別表第二」の3項「子の監護に関する処分」(民法766条2項及び3項等)に該当する。
次に、家事事件手続法268条1項は、「調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第39条の規定による審判)と同一の効力を有する。」とされている。
前述のとおり養育費の支払給付を定めた家事調停調書は、上記括弧書き内の「別表第二に掲げる事項」を定めたものであるから、上記268条1項により、「確定した第39条の規定による審判」と同一の効力を有することになる。
家事事件手続法39条は、「家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第一及び別表第二に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする。」と定めている。
そして、その審判(裁判所が決定により下した判断)について、家事事件手続法75条は、「金銭の支払、物の引渡し、登記名義の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。」とされている。
ここに言う「執行力のある債務名義と同一の効力を有する」の解釈として、執行文は不要であると解されているものである。
したがって、養育費の給付条項の記載のある調停調書に基づき、
強制執行を行う場合には、執行文の付与は必要ないという結論に至る。
以下、補足である。
「別表第二」の事件は、養育費の給付を求める家事調停事件以外にも、「扶養の程度又は方法についての決定」、「婚姻費用の分担」や「財産の分与」に関する処分、並びに「遺産の分割」等々がある。
注意すべき点として、家事調停調書に記載された給付条項であっても、「別表第二」に該当しない事項については、執行文が必要となる。例えば、和解金、解決金、慰謝料のような場合である。
「執行力のある債務名義と同一の効力を有する」ものして、執行文が不要であると解されているものは、他の法律にもある。例えば、刑事訴訟法490条が「罰金、科料、没収、追徴、過料、没取、訴訟費用、費用賠償又は仮納付の裁判は、検察官の命令によってこれを執行する。この命令は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する」などと定めている。但し、ある法律に、「執行力のある債務名義と同一の効力を有するもの」との文言が記載されていても、執行文付与の要否は、その法律ごとに解釈する必要がある。